「身内に株で大損して、家をなくした人がいるの。だから私は絶対にやらない」
昔、株で少し利益が出ていたころ、友人に株を勧めたことがあります。
返ってきたのが、この言葉でした。
私は何も言い返せませんでした。
だって、その通りだからです。株で家をなくす人は、本当にいるのです。
投資が怖い。
その感覚は、間違っていません。むしろ正しいと、45年株をやってきた私は思います。
今日は、怖さとどう付き合ってきたかというお話です。

慎重だった父の話

実は、私の父は、私が株を始めるずっと前から株をやっていました。
父が買うのは、日本の老舗企業だけ。
安い時期にじっくり買って、何年でも同じ株を持ち続けられる人でした。
子どものころ、父が「ユニチカは設備投資をしているから、今後伸びる」と話していたのを覚えています。
当時の私は株のことなど何もわかりませんでしたが、会社の動きを見て、じっくり選ぶ父の姿は心に残りました。
今の時代なら、父は何を買うんだろう? ——いえ、たぶん怖くて、何も買えないんじゃないかと思います。
バブルで株価が右肩上がりだったころ。
亡くなる2〜3年前から、父は繰り返しこう言っていました。
「この株が、こんなに上がるわけがない。大暴落が来る」
ほとんどの株が2倍、3倍になっていく中で、ひとり静かにそうつぶやく父。
その独り言が、私の頭の片隅にずっと残っています。私の「怖さ」の原点は、たぶんここです。
父は病気で亡くなりました。
その日が、偶然にも、バブルの株価最高値の日でした。
絶頂の株価を見ながら、「父の口癖、当たるかもしれないね」と、私はぽろっと口にしたのです。
そして本当に、その通りになりました。
無頓着だった母の話

父は、自分たちの老後のこと、子どもや孫のことまで考えて、十分なお金を残してくれました。
子どもたちは当時お金に困っていなかったので、ひとまず母に預ける形で全員が合意しました。
ところが。
株の知識がまったくなかった母は、父から受け継いだ株を、自己流で売り買いしていたのです。
誰も知らないうちに、数千万円が消えていました。後になって、わかったことです。
慎重に慎重に築いた父の財産が、静かに消えていた。
我が家にも、「株で大損した身内」がいたのです。
私は、どっちもやっていた

父の慎重さと、母の無頓着さ。
ふたりの株との付き合い方を間近で見てきた私ですが——
振り返れば、私はどっちもやっていました。
調子のいいときは母のように無頓着に買い、
怖くなると父のように「絶対下がる」と疑い、
それでも結局、株価に振り回されて損をする。
このブログの第1回に書いたとおり、紙切れも塩漬けも経験しました。
怖さの理由を、私は身をもって知っているのです。
70歳からの、1年間の勉強

二度と株はやらない。そう決めていた私は、テレビでNISAの話題が出ても、見向きもしませんでした。
考えが変わったのは、新NISAの登場です。
「なんだか、これは違うかもしれない」——良い制度だという予感がしたのです。
調べてみると、「これなら一生持ち続けられる」とわかりました。
それなら少し魅力的かも、と思ったのです。
でも、そのとき私はすでに70歳。残りの人生のお金を、1円も減らしたくありません。
だから、勉強することにしました。
選んだのは、YouTubeの「リベ大(リベラルアーツ大学)」。お金の知識を教えてくれる、登録者の多い人気チャンネルです。
毎日、毎日、聞き続けました。
「こういうことをするとお金が減る」
「この方法なら安全」
それを頭に叩き込む日々が、1年間続きました。
怖さが消えた日

勉強の中で、私の怖さを溶かしてくれたものがあります。
「オルカン」と呼ばれる投資信託(全世界の会社にまとめて少しずつ投資できる商品です)の、過去の長期グラフでした。
ジグザグと下がる場面は何度もある。
それでも長い目で見れば、世界の経済は成長し続けている。
下がっても、また上がる。
そのグラフを眺めているうちに、気づいたのです。
昔の私は、上がれば飛び乗り、下がれば慌てて売っていました。
株価に振り回されていたから、損をしたのです。
そしてもうひとつ。
株の売り買いで儲けようとするのは、プロに試合を挑むようなもの。
私が勝てるわけがない、という潔い降参です。
勝負をやめて、世界の成長にただ乗せてもらう。
失敗しても生活が壊れない金額だけで、楽しむ。
そう決めたら、すっと怖さが消えました。
1年間勉強したおかげで、良い投資と悪い投資の見分けが、つくようになりました。
100%安全とは言い切れません。それでも、「これなら自信を持って人に勧められる」と思えるようになったのです。
実際、周りでNISAをやっていない人には「やらないともったいないよ」と伝え、
興味を持った友人の口座開設を手伝ったこともあります。
オルカンがなぜ勧められるのか、自分の言葉で説明できる。
それが、1年間の勉強の何よりの成果でした。
怖さは、消さなくていい

私の身近に、株価の乱高下に一喜一憂している人がいます。
「今日は千円下がったよ」と報告してくるのですが、私の返事は「あ、そう……」。
上がっても下がっても、振り回されない。
そんな自分でいられることが、今は何よりうれしいのです。
怖い株に手を出していないから、何があっても平気。
「経済は、下がってもいつか戻る」——この世の中の仕組みを理解していたら、人生が破綻することはありません。
投資が怖いあなたへ。
その怖さは、捨てなくていいんです。
怖さを知っている人ほど、無茶をしません。むしろ向いているくらいです。
怖がりのまま、生活が壊れない小さな金額で、そっと始めてみる。
45年かけてたどり着いた私の答えは、それだけです。


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